光と身体で、都市の「影」に色彩を与える|河野未彩×アオイヤマダ
「渋谷ファッションウィーク2025春」との共催企画として開催された「Bunkamuraの未来を照らす新しいアート体験 2025」。そのなかで行われたトーク&パフォーマンス「光と身体で街を記述する」では、視覚ディレクター/グラフィックアーティストの河野未彩と、パフォーミングアーティストのアオイヤマダが登壇した。ARTnews Japan編集長の名古摩耶をモデレーターに、二人の創作の原点や都市との関わりについて語り合うセッションは、後半のパフォーマンスへと繋がっていく。
2000年代半ばから創作活動を続ける河野は、現象や女性像に着目した色彩快楽的な作品を多数手がける。多色の影をつくる照明「RGB_Light」は、日米特許取得から製品化までを実現してもいる。一方のアオイヤマダは、ダンサーや俳優として活動するパフォーミングアーティストだ。二人は過去にも河野のプロダクトであるRGB_Lightのモデルや、2018年から作品創りをしてきたクリエイティブコレクティブ河野が参加する創作集団「海老坐禅」としての活動など、数々のコラボレーションを重ねてきた。
多方向からの視点がもたらす多彩な影
このイベントに合わせて、河野はBunkamura 1階正面エントランスにインスタレーション作品「【発光×干渉×鑑賞】者を」制作。光の三原色である赤・緑・青から成るを照射し、それぞれが織りなす影が混ざり合うことでカラフルな陰影を生み出す作品だ。2005年頃から河野のパーソナルワークとして始まったRGBライトを、今回はインスタレーションとして展開させている。
本作は、都市という概念を「構造体」「光」「影」「人通り」という四つの要素にミニマルに分解・再構築。作品のインスピレーション源として、量子力学における二重スリット実験を挙げた。
「アーティストを目指したときに、宇宙で起きていることと自分の中で起きていること、摂理、哲学と医学と科学の共通項があるんじゃないという興味がきっかけでした。それらの間にある、まだ描ききれていない可能性に、インスタレーション化することによって向き合おうと試みています」
河野未彩(視覚ディレクター/グラフィックアーティスト)
街を歩いているときに朝昼晩で光景が変わるように、この作品も場所に対してどこを見るかという新たな気づきのきっかけになればいいと、日常の中での気づきの重要性も強調した。
また興味深いのは、河野が語る影と多様性の関係に関する見解だ。一般的に影は黒い。しかし、多方向からの視点(光)によって影は多彩な色を見せるようになる。
「この現象を人々の視点に置き換えると、多様な視点があることで一面的な見方を超えた豊かな理解が生まれるのではないか。そんな思いを作品に投影させています」
隙間から刹那に現れる、有機的なドラマ
アオイヤマダ(パフォーミングアーティスト)
アオイは河野との対話を通じて生まれた都市のイメージについて、初日の出をめぐるエピソードを紹介した。渋谷のビル群に遮られて直接日の出を見ることはできないが、向かいのビルに反射した日の出が先に見えるという現象は、悲しさと同時に都市ならではの感覚をもたらすという。
長野県出身のアオイは、夜の街で見かけた7色に発光する金属の破片など、地元では見られない光の反射現象が都市らしさを感じさせると話す。そして都市の本質を独自の視点で捉える。
「建物って相当なことがない限り、壊されたり変わったりしませんよね。その変わらないものの隙間から、光や風、人間が生活することで生まれる有機的な何かが刹那的に現れる。これにすごくドラマを感じているんです」
アオイヤマダが15歳で上京したとき、人同士の距離の近さに驚きを感じた経験を語りつつも、次第に都市にも自然や独自の生態系があり、根本的には故郷と変わらない側面があることに気づいていったという。
東京の街、夜になるとほぼ全てのビルの上に赤い光がついて、夜行性の虫みたいで怖い。
東京の街、いろんなものとの距離が近すぎる。食事も、電車も、ビルの間も。
東京の街、香水の匂いと下水の匂いが交差して気持ちが悪い。
東京の音、音が多すぎて混乱する。
その一方で、
東京の街、夜になるとほぼ全てのビルの上に赤い光がついて、イルミネーションのようで美しい。
東京の街、いろんなものとの距離が近い、孤独が紛れる。
東京の街、様々な香りが漂い、様々な記憶に結びつく。
東京の音、日常から、音楽が生まれてくる。
これは、今回の展示にあたり、アオイヤマダが河野に提示した東京という都市のイメージだ。ひとつの風景に同居する否定的な視点と肯定的な視点は、約10年の東京での生活を経て、都市への見方は時間とともに変化してきたことを物語っている。アオイヤマダは、そこに面白さを見出している。
東京によって、わたしの影が色彩を得た
アオイは都市との出会いによって自分の「影」が色彩を得たと表現する。
「わたしのダンスやパフォーマンスは地元では需要がないと思っていた。でも都市では可能性として開かれていって、自分の存在を正当化してくれたように思うんです」
一方河野は、渋谷との関わりについて世代的な体験を語る。109周辺のギャルカルチャーや赤文字・青文字雑誌の世代として、横浜市郊外から月に一度は渋谷に来て原宿まで歩き、また渋谷に戻るというルーティンがあった。「行けばそこで何か得られる」という感覚で訪れていた渋谷は、河野にとって大きな影響を与えた場所だったという。
河野にとって、自分の足で街を歩き、自ら選んで購入するという体験は、当たり前のようでいて満たされる時間だった。現代ではGoogleマップに星の数ほどピンを立てていても、なぜピンを立てたかを覚えていない。それほど経験と紐づかない情報、消化しきれない情報が溢れるなかで、どこで情報に出会い、どこに足を向けるかは一種の確率的な出来事になっていると指摘した。
そして、そのような時代において、街は人によって全く異なる姿を見せるとも。
「『渋谷で一番のお店は?』と聞いても、答えは人によってさまざまですよね。全員が違う視点で街を見ており、それぞれにとっての渋谷が存在している。渋谷は、それがより顕著な街なんじゃないかと思います」
自分の立ち位置から世界を見つめる
アーティストとしての社会的役割についての議論も、セッションの重要なテーマとなった。アオイヤマダは、「社会にどうコミットするか」という問いに悩んだ10代の時期があったという。
「それに対して、医師である知人からこういわれたんです。『僕たち医者はマイナスをゼロにできるけど、イチにすることはできない。君たちはそんなことをやるために存在しているんじゃないか』って」
この言葉をきっかけに、アオイは「0を1、2、3にしていくために存在している」と自覚するようになった。アオイが立ち上げたパフォーマンス集団「東京QQQ(Tokyo Thankyou)」には、二分脊椎症や小人症をもつ方、車椅子ダンサー、ドラァグクイーンなど多様なメンバーが参加している。
そんな活動に対して河野は、「0を1にしたい」と願う、それぞれの立場からの叫びを自らでどう扱い、花開かせるかを率先して示している。そしてそれが自身の励みになっているとも明かした。
「人間はそれぞれ立ち位置が違う。日々の生活は、それぞれの視点からみたものの報告会のようなものかもしれません。いかに自分の立ち位置からものを見つめられるか。それがすごく大切なことなんだと、いつも思うんです」
プロフィール
河野未彩
視覚ディレクター/グラフィックアーティスト
音楽や美術に漂う宇宙観に強く惹かれ、2000年代半ばから創作活動を始める。最近の展覧会に「海老坐禅展」(PARCO MUSEUM TOKYO、2025)、「宙 飛ぶ リンゴ」(HARUKAITO by ISLAND、2024)、ART SQUIGGLE YOKOHAMA 2024(山下埠頭、2024)、TOKYO GENDAI(パシフィコ横浜、2024)などがある
アオイヤマダ
パフォーミングアーティスト
東京2020オリンピック閉会式ソロパフォーマンス、ダムタイプ『2020』パフォーマンスの他、ヴィム・ヴェンダース 作品『PERFECT DAYS』やNetflixドラマ『First Love初恋』に俳優としての出演や、宇多田ヒカル「何色でもない花」のMVを振付。NHK『ドキュメント72時間』のナレーションなどに携わるなど、身体と声で活動を広げている。生き様パフォーマンス集団『東京QQQ』としても活動中。所属するクリエイティブコレクティブ”海老坐禅”の作品集『EBIZAZEN』も刊行された
Text by Takuya Wada
Photographs by Kenta Shibayama