異なる風景の断片を繋げ、都市を揺さぶる|SIDE CORE × 穂原俊二
「渋谷ファッションウィーク2025春」との共催企画として開催された「Bunkamuraの未来を照らす新しいアート体験 2025」。「いかに都市のルールを揺さぶるか」と題されたトークセッションでは、アーティストのSIDE COREと編集者の穂原俊二が登壇。ARTnews Japan編集長の名古摩耶をモデレーターに、渋谷を舞台にした表現活動の可能性について議論を交わした。
SIDE COREは、高須咲恵、松下徹、西広太志をメンバーとするアーティスト集団。個人がいかに都市や公共空間のなかでメッセージを発するかという問いのもと、ストリートカルチャーの思想や歴史を参照した作品を制作している。今回のBunkamura展示では、地下1階吹き抜けに「rode work」シリーズの大型新作インスタレーションを発表した。
渋谷の地層から浮かび上がる作品
SIDE CORE・松下徹
セッションの冒頭、松下は、SIDE COREと渋谷の関係について語り始める。
「ぼくたちはストリートカルチャーに関するリサーチをベースに作品を制作していて、自分たちが体験したことや見たものを題材にしています。基本的な表現の場、何かを考えるスタートポイントが渋谷になることが多いんです」
今回の展示について松下は、それぞれの風景の断片を拾い上げた作品を複数点在させ、展示全体のなかで渋谷を描き出す構成になっていると説明した。
「ひとつの断片だけ見てもあまりわからないんだけど、繋げてみると街のことが見えてくる。そういう構成の展示になっています」
例えば館内に配置されたネズミの土器は、昨年代官山の猿楽町で開催された都市型フェスティバル「DEFOAMAT(デフォーマット)」に参加した際に制作したものだ(会場近くにはかつて弥生土器が出土した猿楽住居跡公園がある)。同作品は、渋谷川で採取してきた赤土を用い、猿楽町の代官山 蔦屋書店の敷地内で野焼きをして焼成した。
街に隠れたコンテクスト、ある種の“見えない世界”を掘り起こし、都市のなかで明るみにすること。それがSIDE COREの活動のテーマのひとつだ。SIDE COREが過去に行政の許可を正式に取って行った渋谷の暗渠ツアー&パフォーマンスも、そうした都市の地盤に隠れた分脈を掘り起こす行為だといえる。
地図作品「RIVER DIVER MAP」。渋谷の暗渠にフォーカスし、グラフィティなどストリートカルチャーの歴史について記述している
異なる風景の断片を繋ぐ
「ストリートカルチャーが場所を超えてコミュニケーションを引き出して文化が伝わっていく。違う場所同士を繋げるみたいなことは、自分たちの活動のテーマのひとつです」
松下は、そうも付け加える。今回展示された大型立体作品『rode work shibuya』は、シャンデリアのような構造体に「仙台銘板」という会社の照明機材を取り付けたものだ。これは東日本大震災以降、全国的に増えた工事用の照明だという。
「この照明は電波時計の仕組みが採用されていて、その電波は福島の双葉町と大熊町の山の上にある電波送信所から発信されている、東日本の標準電波でもあるんです。福島から送信された電波によって、仙台でつくったライトが被災地の復興工事現場で明滅し、それが東京でもシンクロして発光する仕組みになっています」
松下はSIDE COREの活動の大きなきっかけのひとつに東日本大震災を挙げるが、遠い地の風景の断片を、言い換えれば東京の生活者にとっては“見えない世界”。それらを拾いあげて異なる地の風景に繋げ、人々にその関係性を発見させる機会を生んでいる。
『rode work shibuya』
都市の時間軸に介入する表現
トークセッションが行われた休業中のカフェ「ドゥ マゴ パリ」。その2階に展示された彫刻作品「やわらかい建築の為の習作」は、会期中に徐々に壊れていく設計になっている。建物の骨組みのようでありながら、建設中なのか解体中なのかわからないその姿は、都市の開発と再開発のサイクルを象徴しているという。
「東京、特に渋谷はどんどん開発・再開発されていて、建物の寿命は50年を切るものもあります。長い時間軸で見るとすごく街が柔らかく変化していくことが、東京の建築物が持っている運命だといえます。その時間軸を短くしてさらに厳しい運命に晒し、ひび割れ、壊れていく作品を意図しました」
時間によって変化する都市。松下は、その空間に立ち現れる文化の隙間にも着目する。
「『街中ではスケートボードするな!』。スケーターはそういわれる。でも、終電が終わると文句をいうひとはいなくなり、たちまちストリートがスケートボードのフィールドになる。単一の目的や枠組みのっとってのなかで全員が共通して使う空間に、時間の経過によって一時的な空間が現れる。街の文化は特定の時間軸の中だけで成立するものが多くあり、その時間と空間が交差する瞬間に、ストリートカルチャーの本質が隠れているとも思うんです」
スクランブル交差点が持つ表象性
また、セッションで展開された興味深いトピックに、穂原が語った、渋谷の象徴的な場所となったスクランブル交差点の表象性がある。
「井の頭線と銀座線を繋ぐ通路ではスクランブル交差点が見渡せますよね。東日本大震災が発生してすぐのあの場所は、電力規制のために薄暗かった。そうすると、通路の壁面にある、1954年にビキニ環礁の水爆実験で被爆したマグロ漁船・第5福竜丸をモチーフにしている『明日の神話』(岡本太郎)がガラスに反射して、街と重なって見えるんです。その作品の隙間に、アーティストのChim↑Pomは原発事故を描いた絵をゲリラ的に残すわけです」
穂原俊二(編集者)
さらに穂原は、映画『ジョーカー』とスクランブル交差点との風景が重なるとも指摘。自分の生い立ちが明らかになった主人公は、坂を転げ落ちていくように狂気を育くみ、やがてジョーカーとなる。そのジョーカーが踊りながら降った坂と道玄坂。その道玄坂の下にある、ハロウィーンの聖地ともなったスクランブル交差点。そして、2021年にジョーカーのコスチュームをまとった青年が京王線内で起こした刺傷事件。
これを受けて松下は、オランダ人芸術家のイップ・ルービングが、2000年にスクランブル交差点で行ったパフォーマンスを紹介した。ジョーカーに扮したイップが、通行人に指示を出してスクランブル交差点を封鎖するというパフォーマンスだ。
「2000年に、まさにジョーカーがここにいた。そしてイップは2001年9月12日にニューヨークのブロードウェイで同様のパフォーマンスを計画していましたが、アメリカ同時多発テロ事件が起こってしまう。少数の集団もしくは個人が“ジョーカー”として社会を壊すことの危険性を作品で表現しようとしていた矢先に、実際にそれが起きてしまった。それに大きなショックを受けたイップは、芸術活動を辞めてしまうんです」
こうした2人の言葉は、社会・政治的なイシューや社会の価値観を揺さぶる表現の痕跡、文化の表象が、ポジティブなもの、ネガティブなもの含めてあらゆる方向から集積する場としても、スクランブル交差点が機能していることを物語っている。
都市を揺さぶるアートと企業の役割
これまで創作者たちの表現を駆り立ててやまなかった渋谷という場所が、大規模開発が進む未来においてそのポテンシャルを発揮し続け、文化的な求心力を保ち続けるためになにが求められるのか。そんな問いに対し穂原は、まずグラフィティを例に重要な切り口を提示する。
「社会、特に街のものの見え方を揺さぶるという点においては、グラフィティといったストリートアートが例に挙げられることが多いでしょう。そこでは、その本質が反権異性、あるいは違法性が論点になります。しかし、“揺さぶる”というアートの行為は、本来的にはリーガルかイリーガルかは関係ありません」
1980年代、ニューヨークではグラフィティを中心に、(違法性をともなった)ゲリラ的なアートを介したアクティビズムが隆盛を極めた。一方日本においては、企業が打ち出した「広告」がその役割を担ってきたと松下は呼応し、企業とアーティストの協働の可能性について語る。
「アートディレクターの石岡瑛子さんら当時の表現者は、ある意味権威側でもある企業が掲げる広告を介して、高いクオリティのクリエイティブをもってメッセージ性を社会に対して投げかけた。アーティストは、企業と仕事をするときはマイルドなことをやって、その外側で個人的にやりたいことをやる、みたいな感じになりがちじゃないですか。でも、自治体や企業など、アーティストとは違う力をもった側のひとたちとのプロジェクトのなかで、尖ったことを本気でやらなくちゃいけない。そう思うんです」
プロフィール
SIDE CORE・松下徹(アーティスト)
高須咲恵、松下徹、西広太志とともに、2012 年より東京都を拠点に活動を開始。映像ディレクターは播本和宜。個人がいかに都市や公共空間のなかでメッセージを発するかという問いのもと、ストリートカルチャーの思想や歴史などを参照し制作する。ときに他ジャンルの表現者を交えたプロジェクトとして、 都市の死角や隙間となる場所で多彩な作品を展開。近年には、個展「SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット」(ワタリウム美術館+屋外、2024)開催、第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」(横浜美術館ほか、2024)参加
穂原俊二(編集者)
イースト・プレス所属。編集した本に、村上隆『芸術起業論』、会田誠『カリコリせんとや生まれけむ』、椹木野衣『反アート入門』、卯城竜太『芸術活動論』、松田修『尼人』、森川嘉一郎『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』、山本浩貴『ポスト人新世の芸術』、久保友香『ガングロ族の最期』など。2021年、道玄坂上でWHITE ROOMを主宰
Text by Takuya Wada
Photographs by Kenta Shibayama